あとがき

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「何者か、名乗りなさい」
 少女が距離を保ったまま、先程より鋭い声で詰問する。彼は肩をすくめて、用意していた台詞を紡いだ。
「僕は、天空都市の整備を担当している職員です。貴女の部屋の外壁に異状を発見したので、見させていただいていたところ、こうしてお邪魔するに至った次第です」
 少女は血色の瞳でこちらをじっと見つめた。そして。
「それは嘘」
 と、ぴしゃりと言い切った。
「この部屋は一昨日見てもらいました。修復を必要とする箇所は無いと、その方はおっしゃっておりました」
 数秒黙り込んでから、それに、と彼女は続ける。
「わたくしに接する天空都市の民は、細心の注意を払い、美しき言の葉しか用いません。その事から、貴方は、わたくしと接する資格を持たぬ者、更には、この都市の民にあらぬ者とお見受けします」
 舌打ちの音が響いた後、噴水の流水音しか聞こえない沈黙が落ちた。彼はばさばさの髪をことさらにぐしゃぐしゃとかき乱して、
「それなら話は早い」
 と、大股で少女の元へ近づき、彼女が身を引くより先に、その細い手首をつかみとめて、低く囁いた。
「あんたの言う通りだよ。俺は地上の人間だ」

『うつくしきことのは』



 母艦から出撃して、わずか5秒後。
 高音域の警告が発せられ、右側のモニタに、赤い光が点滅する。その数、6。
 同時に、機体頭部に搭載されたカメラの光景が映し出される前方のモニタにも、星々の輝きではない光点が瞬いた。
 視認と同期して、ルツは操縦桿を思い切りひねる。『サラマンダー』が左に傾いた刹那の後、一条の光線が、最前まで『サラマンダー』が居た空間を薙いで過ぎた。
 一撃目をかわした安堵に包まれる猶予も与えられず、続いて襲いかかって来たミサイルを迎撃にかかる。たたたっとパネルに指を走らせれば、機体搭載されたホーミング弾が、向かい来るミサイルと同数撃ち出され、黒の宇宙に、一瞬の白い花々を咲かせた。
 その途端、きん、と。
 軽く脳内を突くような感覚と同時、ルツの耳に、歌が届く。

 セァク セァク
 神の祝福受けし セァク(我ら)
 この世に生きる 神の御子

 それは独唱のように、あるいは斉唱のように、時に高く、時に低く、めまぐるしい変化をもって、ルツを翻弄する。

 神の祝福受けし セァク(我ら)
 ソェヌ(我)散ろうとも セァク(我ら)は消えぬ

 それは神の子を讃える賛美歌のように聴こえるが、実際は、彼らを鼓舞し、士気を高める戦歌だ。
 彼ら――『セァク』の。
『ClaIn』





 以上二作は、『アルテアの魔女』を書き始めるよりずっと前に書いて、序盤で挫折した作品です。
「濁りの無い言葉しか使えない」「勢力名はセァク」と、『アルテアの魔女』に流用した設定があります。このように、『アルテアの魔女』はいくつかの物語の犠牲の上に誕生しました。
 もう時効だと思って言いますが、元をただすと、今作は某大賞への応募作として執筆されました。それが第一部『アルテアの魔女と黒の死神』なのですが、まあー文章も展開も穴だらけの上に、とても大事な局面でエレのアルテアに濁点のある言葉を混ぜてしまったなど、色々とポカをかましまして、勿論選考は通りませんでした。
 それでも、エレ達に対する愛着があって、彼女達のその後を見てみたい、と思った結果、投稿作を第一部として修正し、第二部、第三部と勢いで書き上げて、『アルテアの魔女』連載版は完成しました。

 少女小説としては血なまぐさすぎ、少年向けとしてはヒーローができすぎていて共感できない。ラノベと呼ぶには対象年齢を少々過ぎていて、だからと言って文学とは決して言えない。どこの需要にも応えられていない、いかにも私らしい作品ですが、キャラ達に対する思い入れは、かなりあります。
 それは本編にも反映されていて、第一部で悪役だったソキウスが後に復帰してミライといいかんじになったり、第三部で勝手放題したカナタにも救いの道が残されています。
 これが従来のたつみ作品でしたら、二人はどこかで死んで、幸せになんてなれなかったでしょうし、読んでくださった方の中には、「何でこいつらに救いがあるんだ」というご意見を持たれた方もいらっしゃると思います。
 ですが、敢えてそこをひっくり返そうと思ったのが、今回の私の意志でした。
 第二部、第三部を書く、と決めた時に、レイの寿命がもう決まっていて、そこまでに亡くなるキャラも何人かいたので、「第三部ではメインキャラを絶対に死なせない」という決意をしました。反動で、第三部4章でミライの語る悲劇的な未来で皆死んでいきましたが、本編では「これ以上犠牲を出さない」を貫きました。もう意地です。
 いつもなら主人公をかばって死ぬくらいの扱いを受けるキャラ達にも、生きて、過去を抱えて悩みながら生きてゆく道を用意しよう、という信念のもと、最後まで生き残らせて、 希望的観測の未来まで用意しました。

 エレとインシオンを中心に据えた物語は、これで一旦の収束を見ますが、勿論彼らの人生はこれからも続いていきますし、決して順風満帆幸せだらけの人生が続く訳ではないでしょうし、苦労もするでしょうし、下手をすれば、『神の血』の無くなったインシオンはいつか、破神の関係無い人間同士の戦で命を落とすかもしれません。
 そういった先の幸も不幸も全部ひっくるめた上で、「君達を私の手で引っ張ってゆくのはひとまずここまでだよ」と、今日、彼らと繋いでいた手を離します。後は彼らが彼らの人生を生きてゆくと思います。

 長くなりましたが、『小説家になろう』もしくはサイトにて今作品にお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
 頭の中にはその後の彼らの姿も浮かんでいますし、後ではなく前、本編前の時間軸の物語などもちょっと書いてみたりしました。それをいつかお見せできる形になったら、またフェルム大陸の人間達を愛してやってくださると幸いです。
 それでは、またお会いできる日を夢見て。

2014年9月6日 たつみ暁 拝


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