序:リフレイン

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 辺り一面見渡す限り、火の海だった。人も建物も地面も、全てが灰燼に帰する。もう元には戻らない。取り戻す事はできない。
 破滅のただ中に少女は独り立ち尽くして、何故こうなってしまったのだろうと考える。
 どこで階段を昇り間違えたのだろう。正しいと思ってしてきた事が過ちであったというのは、今、目の前で繰り広げられている惨劇が証明している。
 暗い空を埋め尽くす黒い巨大な獣が吼え、再び炎の雨が降った。このまま死の遣いに身を委ねて生命を終わらせられたら、どんなに楽だろうか。ぼんやりと空を見上げ、隕石のように落ちてくる火の塊を映していた虚ろな赤い瞳は、次の瞬間、はっと正気の光を取り戻した。
 赤い石に触れた唇を滑らかに動かし、身に染みついた言葉を紡ぐ。
『決して死に捕まる事の無いように』
 無意識にかざした手から虹色の小鳥が生み出され、羽ばたく。小鳥は青く輝く翼を広げると、空中で無数の羽になって四散し、光の衣となって少女を包み込んだ。彼女を狙って落下してきた炎の塊が不自然に軌道を逸れ、少し離れた建物にぶつかって火花を飛散させる。
 死ぬ訳にはいかない。
 自分はこの落とし前をつけなくてはならない。
「……カナタ」
 ぎゅっと噛みしめて血を流す唇から、呪いの言葉のように憎々しげに、人の名が放たれる。
「許さない。私は必ず、お前を」
 炎が風を巻き起こし、風は新たな炎を呼ぶ。赤銀のざんばら髪が乱れて吹き上げられ、迸った叫び声は、更なる炎上の音の前にかき消された。

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