『負け犬はワルツを上手く踊れない』

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「突然の召喚の上に、このような無礼、どうかお許しください。
わたくしは、フォルティア王国第1王女、リーティア・フォン・フォルティア。こちらが兄の、第2王子フェルナンド・フォン・フォルティア。
わたくし達フォルティアの民は、長い間、あなた様のご降臨を、お待ちしていました」
フォルティア? そんな国、高校の地理で習わなかったぞ。
アタシがまた難しい顔をすると、リーティアは顔をあげ、はきはきと告げる。
「ここフォルティアは、あなた様のお生まれになった世界とは、異なる次元に存在する国。
そして、この地には古くより、国が危機に陥った時、異世界から、女神アリスタリアに選ばれし戦巫女が訪れる、という伝説があり、実際に過去にも幾度か、戦巫女様がご降臨されました。
フォルティアの姫は代々、戦巫女様を召喚し、お仕えする役目を担っております。
わたくしの代で、戦巫女様が現れた事、大変光栄に思います」
もう泣き出すんじゃないかってくらい目をウルウルさせて、リーティアはアタシを見つめてくる。それに気圧されて思わず忘れそうになったが、大事な事を聞く。
「ちょい待ち。『国が危機に陥った時』って言ったわよね。
って事はアタシは、その危機とやらを救わなきゃいけない訳?」
「そうだ」
今度はリーティアじゃなくて、フェルナンドと紹介された兄貴の方が答えた。偉そうに腕組みしながら。
「ここ数年、フォルティアには、魔物があふれている。
奴らは日ごとに凶暴さを増し、昼夜を問わず街や村を襲い、国の騎士団だけでは最早対応しきれない。
北の地に封じられていた、凶暴な魔族が復活したとの噂もある。
それを鎮められる力を持つのが戦巫女だが……」
そこで言葉を切り、横を向いてまたボソっと。
「……本当に大丈夫なのか? こんな若くない戦巫女は前代未聞だぞ」
「お兄様ったら! 女神アリスタリアの選定に、間違いはございません!」
リーティアがぷうと頬を膨らませて、兄貴を黙らせる。しかしアタシは、それどころではなかった。
「魔物? 魔族? ご冗談。
アタシは平凡な小市民よ。そんな、ゲームの中の話みたいな力、ある訳無いじゃない」
そう、これはきっと夢、夢なんだ。
ぎゅーっと自分の頬を引っ張った。

……痛い。

そういえば、さっきも背中から落ちて痛かったわ。
ならばせめて、知り合いに連絡を取って迎えに来てもらおうと、手の中に残っていた携帯を開く。

……画面の左上には、『圏外』の2文字が、無情に表示されていた。

「今はまだ、困惑なさるのも、無理は無いかと思います」
呆然とするアタシの耳に、リーティアの声が届く。
「ですが、戦巫女様が、女神の加護を受けたのは事実。いつかそのお力に目覚める日が、きっと来るでしょう」
それから、嬉しそうにぽん、とひとつ手を打って、まだぽかーんとしたままの、アタシの腕を取る。
「とにかく今は、フォルティアの民に、戦巫女様がご降臨された事を知らせましょう! ささやかですが、宴を開かせていただきます」
そこで初めて思い出したように、可愛らしく小首を傾げて、金色の瞳で、アタシの顔を覗き込む。
「そういえば、戦巫女様のお名前をおうかがいしていませんでした。教えていただけますか?」
「アタシ? 蓮子。矢田蓮子」
途端に、フェルナンドが眉間に皺を寄せた。

「やだレンコン?」

……来たよ。
小さい頃からこのネタで、何度からかわれたことか。いつの間にか慣れたけど、なんか、この男に言われると、改めてムカっ腹が立つ。
「レンコン女か。ぴったりだな」
「何よ、そっちの名前だって、イニシャルFFFで、有名ゲームのパチもんみたいじゃない!」
「何訳のわからない事を言っている」
「ああもう、おやめください、お二人とも……!」
リーティアが止めに入る。アタシとフェルナンドは、お互い、プイっとあさっての方向を向いた。

こいつとは、絶対に気が合いそうにない。

そう思った。

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