『負け犬はワルツを上手く踊れない』

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氏名 矢田蓮子。
年齢 28歳。
家族構成 一人暮らし。ただし実家に、父、母、兄夫婦と甥。
資格 学生時代に取った、英検2級、漢検2級、秘書検定2級。
自動車免許 有り。ただしペーパー。
趣味 映画観賞、カラオケ、お風呂で恋愛小説読みふける。

特技

戦巫女。

「……戦巫女は特技か?」

一人ツッコミして、慣れない羽根ペンで、これまた慣れない羊皮紙に書いた文字をガリガリとかき消した。
「お前の字は、読めないな」
突然、その紙が目の前から消える。
アタシは半目になって、紙を奪った手の主を振り返った。
「ちょっとぉ、乙女の部屋に入る時は、ノックぐらいしなさいよ」
「ちゃんとした。お前が気付かなかったから、そのまま入って来ただけだ。大体誰が乙女だ、レンコン女」
青い髪に金色の目をした顔のいい男―しかし性格はイジワルで最悪―それでも、このフォルティア国の王子なんだから世の中わからない―フェルナンドは、ニコリともせずに言い放つ。
「それに何よ字が読めないって。アタシはボールペン字講座を習ってたのよ」
「違う、そういう意味ではない」
フェルナンドは、アタシの書いた紙をためつすがめつ。
「お前の母国語なのだろう、読めないんだ。
お前の話す言葉はきちんと、この国の公用語、ヴィルム語で聞こえるのに。
これも戦巫女の力のひとつなのか?」
そういえば、最初から言葉が通じたもんだから、周りが日本語を話してるのかどうかなんて、サッパリ考えてなかったわ。便利なものだ。
「んっふっふ、恐れ入った? キレイなヴィルム語に聞こえるでしょ」
「いや、アスケイス地方の訛りが入っているな」
……こいつは。本当に、人をほめるという事を知らんのか。
むくれていると、フェルナンドは、
「まあ、これはもういい」
と、人が頑張って書いた自己紹介書を、グシャグシャーっと丸めやがった!
何すんのよ!が喉まで出かかったとこで。
「父上が待ちくたびれた。さっさと来い」
その言葉で、アタシは、自分が何でこんなもの書いていたのかを、ハタリと思い出す。
そうだった……。

マンホールに落ちて、フォルティアに召喚され、一週間。

『伝説の戦巫女』として戦ったのは、最初の日の、「パーティにドラゴン様一匹ご乱入事件」だけで、それ以後は、戦巫女の力を求められる事も無く、城の中でのんべんぐらりと過ごしていただけだ。
そのせいだとか言い訳しないけど。フェルナンドやリーティアが言い出さなかったからだとか人のせいにしたかないけど。

……この国の一番エラい人、つまり王様と王妃様、フェルナンド達のご両親に、挨拶するの忘れてたよ……。

その王様が、アタシの自己紹介書を見たいと言ったそうだから、謁見の前にカキカキしてたわけだけど。
「ほんとに大丈夫? アタシ、国の主に一週間も挨拶しないで、ものすごい失礼な女と思われてない?」
「ああ、その辺は気にしなくていい」
アタシの心配をよそに、フェルナンドはけろりと答える。
「父上と母上はリベラルな方だ。細かい事はこだわらない」
そして、眉間にシワ寄せて、2回言った。

「むしろ、リベラルすぎて困るくらいだ」

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