『負け犬はワルツを上手く踊れない』

5―2



遺跡の中は、大迷宮だった。
続いていると思える道のあちこちが、落盤でふさがれたり、床が崩れていたりして、引き返すことを余儀無くされる。
さらに、道が立体的に交差していたりして、今どこにいるのか、方向感覚を失う。
「誰だ、こんな構造の遺跡造った奴! 責任者出て来い!」

出て来い…てこい…こい…。

ようやく出た広い部屋で、アタシの放った叫びは、虚しく響くばかり。
「まあ、蓮子先輩。ラストダンジョンが複雑なのは、セオリーですから」
「そんなセオリーいらん!」
翔平君のツッコミに、ツッコミ返して、そばにあった柱を、ゴン、と拳で殴る。
と。

ズゥン、ズゥンと。

地の底から響くような音が、近づいて来た。
ん?
こ、これは、アタシが殴ったせいじゃあ、ないよね?
慌てて他の3人に同意を求めようとすると、それより先に、翔平君が、
「敵、ですね」
金色の大剣を抜いて、音のする方向に構えた。
やがて、

どぉおん!

派手に部屋の壁をブチ壊して、アタシたちの3倍近くは身長がある、カリフラワーみたいなアフロ頭の巨人が、姿を現した。
「我は、デア・セドル様の腹心、シュタウデ…。戦巫女、ここから先には行かせない」
切り出した丸太まるまる一本使ってんじゃないかってくらいデカい棍棒が、ブゥンと振り下ろされる。
アタシは咄嗟にリーティアをかばおうとしたが、だが棍棒は、きぃんという音と共に、アタシ達に叩きつけられることなく止まった。

翔平君だ。

自分の身の丈ありそうな大剣で、必死に棍棒を押し返している。
「蓮子先輩、行ってください!」
翔平君が叫んだ。
「デア・セドルを倒して封印すれば、他の魔物も消滅するはずです。
ここで4人共足止めをくらうより、誰かが先に進み、デア・セドルを倒す事が、最良の方法だと思うのです」
セルマ王女が言い、
「任せてください。野球部の練習で、体力には自信あります。
先輩は早く、フェルナンド王子のもとへ!」
翔平君がにっと笑って、アタシを促す。
これで期待に応えなかったら、戦巫女失格じゃないか。
「ありがとう!」
アタシはリーティアの腕を引き、頭カリフラワー野郎がやってきた穴をくぐって、先へと進む。
カリフラワー巨人の低い唸り声が聞こえたけど、翔平君が必死におさえているんだろう、追いかけてくることは、なかった。

その後は、どこをどう走ったのか、よく覚えていない。
とにかく、カンに頼って道を進んだ。
そして、リーティアがヨロヨロになり、アタシも息が切れてゼイゼイいい始めた頃。
いかにもな、黒い大きな扉が、アタシたちの前に、現れた。
「きっと、この向こうに…」
リーティアがフラフラしながら、扉に手をかける。
「ちょい待ち」
アタシはそれを止めて。
「ボス戦の前には体力回復!」
持参していた水筒をリーティアに渡す。
リーティアは、何か言いたげな表情をしてたけど、疲れには勝てなかったんだろう、素直に水筒を受け取って、中身を飲む。
アタシは、水筒を返されると、残りを一気飲みして、ぽーいと放り投げた。
「よし、行くよ」

ギギギギィー……。

嫌な音を立てて、扉が開く。

「ようこそ、フォルティアの戦巫女に、王女よ。やはりお前達がやって来たか」

尊大な声が、アタシたちを出迎えた。
目に入ったのは、黒一色に彩られた部屋の奥、玉座に腰かけて、悪どい笑みを浮かべる、フォレストの顔をした、

デア・セドル!

今度は負けない、覚悟しろ。

そう言って踏み出そうとしたアタシの爪先に、何かが当たった。
足元が、ぬるりと滑る。
リーティアが息を飲む音が、やけに大きく聞こえる中、恐る恐る、目線を下げる。
そこには、見間違えたりしない、青い髪。

フェルナンドが、

うつぶせで、

血の海に沈んでいた。

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