『負け犬はワルツを上手く踊れない』

5―4



デア・セドルが、一瞬ぽかんとした後、盛大に笑った。
「吹っ飛ばす? 余をか?
余の前に、手も足も出なかった事を、もう忘れたのか?」
そして奴は、玉座から立ち上がりもしないまま、手をかざした。
魔法の光弾が、襲ってくる。
確かに前回は、ボロクソに負けたよ。
でも、今のアタシは、あの時のアタシじゃない。

腹の底から、怒ってるんだ!

アタシは、左手を突き出した。
途端、銀色の盾が現れ、光弾を次々はじく。
そうだよ。
今までやってこなかったけど、右手と左手で、それぞれ別のモノを呼び出せるんじゃないか?
アタシの読みは当たった。
左手に盾を構えながら、右手に意識をやると、銀色の光が集まる。
そしてそれは、今のアタシの気分に、ピッタリフィットする形を取った。

銀色の、

ハリセン。

放った光弾を全弾防がれて、デア・セドルが驚きの表情を浮かべる。
その隙を逃さず、アタシは、だん、と床を蹴って、一気に敵との距離を詰めた。
そして、目を見開く奴が、玉座から動く暇も与えずに、

すぱあぁん!

フォレストの顔だけど、変形して構わないやぐらいの勢いで、景気よくはたいた!
予告通りブッ飛ぶデア・セドル。
すると、その身体から、もう一人、誰かが飛び出し、ゴロゴロゴロ〜っと床を転がった。
フォレストよりはるかに小柄な男。
直感的にわかった。

これが、デア・セドルの正体!

アタシの攻撃で、フォレストから分離したのだ。
「うぐぐぐぐ…」
デア・セドルが、情けないうめき声をあげながら、身を起こす。
その顔が見えた時、アタシの中で、何かが、プチーンと切れた。
こいつの顔。

アタシをフッた、アイツにそっくりだ!

それに気づいた瞬間、手加減無用、という単語が、アタシの胸をよぎった。
もう防御はいらない。
盾を光に還し、ハリセンを両手で握り締め。

これはフェルナンドの分!
すぱあぁん!
「ギャッ」

フォレストの分!
ぱーん!
「ヒィッ!」

苦しめられた、殺された人たちの分!
しぱーん! ぱーん!
「やや、やめ…っ」

そして、アタシ自身の怒り。
「くらええ!」

ずぱーん!!

デア・セドルは、部屋の端までブッ飛び、ピクピクと痙攣した。
「蓮子様、デア・セドルの封印を! 今なら、可能なはずです」
リーティアの声が背後から届いた。
アタシはハリセンを手放して光に戻すと、ツカツカと、デア・セドルのもとへ歩み寄り、仁王立ちになる。
「わ、悪かった。余が悪かった…許してくれ」
デア・セドルは、ボコボコになった顔で、情けない声出して懇願する。
「どうか封印だけは勘弁してくれ…この通りだ!」
魔王の威厳どこへやら、土下座までしてきたよ。
やめてよね。
アイツに謝られてるみたいで、気持ち悪いじゃない。
ふと、目をそらした時。

「……なんてな」

視界の端で、デア・セドルがにたりと笑うのが、見えた。
奴が、手を突き出す。魔法が放たれようとしてるのが、わかる。
こんな至近距離、盾を出す猶予もない!

だけど。

「ぐっ……」
うめき声をもらしたのは、アタシじゃなかった。
デア・セドルが口から血を吐いていた。
その胸に、深々と刺さる剣。
それを握っているのは……。

「ボーッと突っ立っているな、レンコン女!」

フェルナンド!?

動いてる。喋ってる。

生きてるよ……!?

何で!?と聞きたかったが。
「話は後だ、奴にとどめを刺せ!」
フェルナンドに促されて、アタシは、馴染んだ銀の斧を、その手に呼び出した。
「クッ……余を倒しても」
デア・セドルは、心臓を貫かれてなお、不敵に笑う。
「魔は滅びはしない……。いずれ、第2、第3の魔王が、この世界を脅かす……。
いや、人間自身から悪が現れ、自ら滅びゆくやもしれんぞ」
「お約束のセリフね」
なら、お約束を返すよ。
アタシは斧を振り上げる。

「その時にはまた、その時代の戦巫女が、ソイツを倒す。負けないよ」

銀色の刃を振り下ろす。
デア・セドルは、黒い粒子になって、完全に、消滅した。

5―3 / TOP / 5―5