サンプル01:ある掃除婦の秘密(サンレイン)


 掃除婦の朝は早い。
……いやごめん、ちょっと気取って言って見たかっただけで、本当は週五日シフト制、たまたま今回朝番になっただけの話です。
 女王国首都の首都にある軍の本部、通称『時計台』。機密だらけの場所ではあるけれど、そこに人がいて働いている以上は様々な汚れやらなんやらが出てくるわけで、まさか軍人さんに清掃専門の役職なんてものがあるわけでもないから、あたしのような一般人でも雇い口があったりする訳ね。
 似たような職に調理担当があるんだけど、あっちはもっと雇ってもらう為の条件が猛烈に厳しいんだってさ。この違いわかる? 万が一食べ物に問題、つまり毒でも入れられた日には兵隊さん全滅ってことになるかららしいのよ。
 とはいえ掃除婦だって軍の施設に出入りする訳だから、セキュリティ対策だか何だかで身元がしっかりしてないと雇ってもらえないの。これでも結構なエリート職なんですからね?
 エプロンの紐を締めなおして準備万端。いつものように各部屋を巡ってゴミ箱の中身をカートに放り込み、机を拭き、床にモップをかけ、椅子を整えて次の部屋へ。
 毎回担当する階が違っているのは、セキュリティの為なのか単にシフトを組んでるヤツの趣味なのかは良くわからないけれど、今回割り当てられた階は、実はあたしが密かに狙っていた場所だったりするのよ。

 いつものように掃除道具を積んだカートを押しながら部屋に入る。軍の施設特有の、無骨で飾り気のあまりない他とは違い、この階は上級士官が使う談話室なのか、踏み心地のよいカーペットやおしゃれな調度品で整えられている。
 一度、廊下の様子を窺ってから談話室の中に入り扉を閉めて鍵をかける。室内には誰もいない。部屋に備え付けられていた時計を確認する。猶予は十分ほどか。よし、今がチャンスだ。
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